徒歩5分のフランス

結婚当初を過ごしたナントでは、毎土曜の朝、パン屋で焼き立てのクロワッサンを、新聞や週刊誌を買い、ゆっくりと朝食をとっていた。我々が気に入っていたカフェは2軒とも老舗で、その昔はビジネスマンでにぎわったのだろうカフェ・ド・コメルスか、オペラ座に立ち寄るブルジョワな客でにぎわったのろうブラスリー・シガルだ。前者は天井、壁、テーブルのすべてが濃く深い木材で、朝も昼もどんよりと薄暗い。初めて入ったのは、冬の雨の夜。ビールをまずは一杯ひっかける客であふれていて、北国の風景だと思ったのを覚えている。残念ながら、この老舗はその後閉店し、ナイキの店に代わっている。シガルの壁は美しいデコールと鏡にうつるシャンデリアの光で、朝も夜も輝いている。教育されたウエイターのサービスもよく、同じコーヒー一杯もかなり優雅な気持ちで頂ける。

レバノンに来てから、週末の朝食にカフェに出かける機会はおおいに減った。郷に入っては、郷にしたがえ。オーブン焼き立てのマヌーシー(薄型ピッザ)や豆料理(フール)等、おいしい朝食メニューは行く通りかあるが、これらを買いに行くか、デリバリー注文で、それを家で食べるのが朝食の王道だ。

おなじフランスの保護領下だったチュニジアにはおいしいバゲットがどこでも手に入るのに対し、レバノンの食文化はパンも含めて、フランスの影響は受けていないようだ。今でも本当においしいフランスのパンが入手できるのは、限られているように思う。だから、数年前キリスト教地区のジャッマイゼにオープンした、フランスのパン屋カフェのチェーン店のポールはおお流行りだ。

もともとフランス語圏ではなかった西ベイルートにも、こうした徒歩5分でフランスを味わえる店が増えた。ハムラ通りの本屋のアントワーン、フランス系のアパレル、おしゃれなビストロやレストラン、それから「モノップ」。フランスの全国スーパー「モノプリ」の食品だけを扱る小規模店だが、フランスのモノップ同様、20種類はくだらないチーズも日替わりサービスが多く、気が利いている。ほかのメーカーより少し低く価格設定されたモノプリブランドの食品・嗜好品のなかでも、「ブリオッシュ」のローフ800グラムは我々のお気に入りだ。パリに旅行しても、ふわふわ感をつぶさずに、手荷物で持って帰るのは正直面倒だった。荷物やパスポートコントロールの鬱陶しさなく、フランスが、こうも手軽に味わえるのはうれしい。

2か月前ほどにオープンしたポールのブリス通り店。ベイルートの地元のパン屋にはたいていおかれていないクロワッサン・デ・アマンドと、カフェラテを頼んだ。ナントの名もないパン屋の創造力や味の追求といった職人芸は感じないが、いつどこで食べても、それなりに美味しい。かなりの高カロリーだが、イースターにふさわしいハレな朝食でした。

 

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